競馬の数学(6)

すっかりと間が空いてしまいましたが、競馬に関わる数学的な要素について考えた結果を、備忘録の代わりに書き残して行くシリーズの6回目です。(一覧はこちら
今回は、以前こちらの記事で触れました「過剰な人気馬を切る効果」について、数学的な解釈を行いたいと思います。

※ 数学的な意味で、厳密には不適切な表記があるかもしれない点はご容赦下さい。一方で、内容に関して本質的な間違いがありましたら、ご指摘を頂けますと大変助かります。


6-1.過剰人気馬を切る効果

【設問】

馬Aの単勝への投票率がPaで、このときの回収率が$Ra$であるとき、馬A以外の単勝馬券を全て購入したときの単勝回収率$\acute{Ra}$を求めよ。但し、JRAの払戻率を$δ$とし、JRAプラス10は考慮しない。

【回答】

$$\acute{Ra}=δ+(δ-Ra)\cdot\frac{Pa}{1-Pa}$$

【証明】

まずレース全体の単勝の総投票金額を$Nu$とし、馬Aの単勝への投票割合を$Pa$とする。このとき、馬Aの単勝への払戻期待額は$Ra・Pa・Nu$である。一方、レース全体の払戻額は$δ・Nu$なので、馬A以外の単勝の払戻期待額の総和は

$$δ\cdotNu-Ra\cdotPa\cdotNu$$

となる。ここで馬A以外の単勝への投票金額は$(1-Pa)\cdotNu$であるので、

$$\begin{eqnarray}\acute{Ra}&=&\frac{δ・Nu-Ra\cdotPa\cdotNu}{(1-Pa)\cdotNu}\\
&=&\frac{δ-Ra\cdotPa}{1-Pa}\\
&=&\frac{δ-δ\cdotPa+δ・Pa-Ra\cdotPa}{1-Pa}\\
&=&\frac{δ\cdot(1-Pa)+(δ-Ra)\cdotPa}{1-Pa}\\
&=&δ+(δ-Ra)\cdot\frac{Pa}{1-Pa}\end{eqnarray}$$

【補足】

ここで$\acute{Ra}$と平均回収率δの大小関係を考えると、

$$\acute{Ra}-δ=(δ-Ra)\cdot\frac{Pa}{1-Pa}$$

であり、$(1-Pa)>0$は明らかであることから、$\acute{Ra}-δ$の正負は$δ-Ra$の正負に一致します。即ちこれは、「馬Aの回収率$Ra$が平均回収率$δ$より高いとき、馬A以外の馬券の回収率$\acute{Ra}$は平均回収率δよりも低く」なり、「馬Aの回収率$Ra$が平均回収率$δ$より低いとき、馬A以外の馬券の回収率$\acute{Ra}$は平均回収率$δ$よりも高く」なることを意味します。つまり、馬Aの回収率が平均回収率よりも低い(即ち、馬Aが過剰人気である)ことが判っている場合、馬A以外の馬券を買うこと(馬Aを切ること)で、平均よりも高い回収率が狙えることになります。

即ちこれは、馬券的妙味のある馬を探すことと、過剰人気の馬を探すことは表裏一体であることを示しています。高回収率を狙うため、往々にして不当に人気の低い馬(穴馬)を探す傾向がありますが、これと同時に買われ過ぎの馬を切ることも重要であることが判ります。

さらに、$\acute{Ra}-δ$の大きさは$(δ-Ra)$と$\frac{Pa}{1-Pa}$の2つの大きさで決まります。前者は馬Aの回収率が平均から乖離するほど、残る馬の回収率も平均から乖離することを示しており、後者は馬Aの投票率が高いほど、残る馬の回収率への影響が大きいことを示しています。つまり、人気の無い馬で買われ過ぎの馬を切っても大勢に影響はなく、人気馬で買われ過ぎの馬を切ることに意味があると言うことです。即ち、危険な1人気馬を見つけることが重要であり、これを切ることが回収率の向上につながることになります。

例えば、過去3年間の全ダートレースの1人気馬の平均単回率は76%であり、これは平均回収率=控除率=80%を下回ります。即ち、1人気を避けて単勝をべた買いすれば、回収率は80%を超えることになります。
更にダート戦の1人気馬の枠番別の単回率を調べると、1枠のときの単回率が69%と明らかに低いと言うデータがありますので、「ダート戦で1人気馬が1枠のレースを狙って1人気馬を切る」と言った馬券術も考えられます。もちろん、これだけで残りの馬をべた買いすれば、回収率が100%を超える訳ではありませんが、全レースの馬券を一様に買うよりは有利な条件で予想することが出来ることになります。

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