歩様の定量化について考える②

「歩様の定量化を考える」の後編です。<<前回はこちら>>

5.有意性の検証

前回は「関節の可動域の広さ」に関連する3つの角度を定義して、現1歳~2歳のグリーンファーム募集馬についてこれを調査しました。しかし、ここで得られたデータを出資馬の選択に活用するためには、これら3つの角度と競走馬の活躍具合に相関性が認められなければ意味がありません。そこで、今回は過去のグリーンファームの活躍馬について同様の調査を行うことにしました。具体的には、(自分がDVDを有している)現7歳馬以降で古馬の準オープン以上に上り詰めた8頭について、前肢角・後肢角・肩角の調査を行い、その結果を以下に示します。

馬名 前肢角 後肢角 肩角
ブランドベルグ 46 44 42
マキシマムドパリ 48 43 44
パラペーニョペパー 43 43 39
サザナミ 48 42 45
ボールライトニング 49 43 43
レインボーフラッグ 47 39 41
セネッティ 43 38 44
アンデスクィーン 45 45 40
平均 46.13 42.13 42.25
偏差値 39.95 36.81 45.48

最初に上記の結果を得たときは、少なからず驚きました。ここに示した活躍馬達は見事なまでに3つの角度が小さな数値に纏まっています。前回示した現1歳馬と2歳馬の(前肢角,後肢角,肩角)の平均値がそれぞれ(49.2,45.6,43.6)であったのに対し、今回の活躍馬達の平均値は(46.1,42.1,42.2)で、全てが下回る値となっています。一見すると僅かな差でしかない様にも思えますが、この活躍馬の平均値を現1~2歳馬のデータ分布に対する偏差値としてとらえると、(40.0,36.8,45.5)となります。特に後肢角の偏差値は40を大きく下回っており、統計的には相当に有意であることが判ります。

6.3つの角度の統合

今回求めた3つの角度は、活躍馬のグループと現1歳~2歳馬全体の分布と比較して明確に乖離していることから、本分析が募集馬の評価において有意であることを示しています。そうなれば、残る問題は「現在の募集馬の中から、活躍馬のグループに属する馬を選別する方法を求めること」に集約されます。

これに対し、今回は多変量解析の一手法である「マハラノビスの距離」の概念を導入します。「マハラノビスの距離」の詳細についてはこちらのWikipediaを参照して頂くとして、簡単に言えば「特定のグループのデータ分布との類似性を表す指標」となります。特定のグループの特徴からの「距離」ですので、この距離が小さいほど対象のグループと近い特徴を有しており、大きいほど対象のグループとは異質な存在と言うことになります。

以下、面倒な計算の説明は全てすっ飛ばして、現1歳~2歳のグリーンファームの各募集馬について、過去の活躍馬のグループとのマハラノビスの距離を求めた結果を示します。

順位 馬名 前肢角 後肢角 肩角 マハラノビス
の距離
1 アースグリーンの2018 49 44 42 2.6
2 レイヨンヴェールの2018 44 42 39 3.0
3 クーデンビーチの2018 50 42 44 3.5
4 アイアムルビーの2018 49 45 41 4.1
5 ツルマルオトメの2018 44 42 44 4.5
6 トゥルーストーリーの2018 50 43 46 5.0
7 ゼマティスの2018 48 47 40 5.7
8 オールドパサデナの2018 44 46 42 7.2
9 デザートオブムーンの2018 50 45 46 7.5
10 リリーアメリカの2018 51 46 45 7.9
11 ネーラペルレの2018 50 48 43 8.8
12 マンハッタンフィズの2018 53 47 43 13.1
13 オープンユアアイズの2018 50 50 40 14.2
14 レースウィングの2018 54 47 44 15.7
15 モンシュシュの2018 45 44 47 17.3
16 ブルーモントレーの2018 52 43 40 18.7
17 ノーブルリーズンの2018 54 46 40 25.4
18 アースサウンドの2018 57 45 48 26.2
19 スルーレートの2018 46 46 52 58.8
1 グランマリアージュ 46 45 41 1.7
2 ナショナルアンセム 48 41 42 2.5
3 ファビュラスライン  49 44 42 2.6
4 ワンスウィートデイ 49 44 42 2.6
5 シュアゲイト 46 45 43 3.3
6 ルヴエルソー 49 44 41 4.0
7 ノルトシュライフェ 47 45 44 4.1
8 ピンクレガシー 48 47 43 6.0
9 フラワーエッセンス 48 47 44 7.8
10 ルヴァンヴェール 51 46 41 9.3
11 ノワールフレグラン 52 46 46 10.8
12 エピデンドラム 47 50 41 12.9
13 スペラーレ 53 41 49 14.7
14 グレースオブナイル 48 46 47 15.1
15 エールプレジール 49 50 45 20.2
16 エレガンテレイナ 54 49 48 26.5
17 サウンドトラック 48 52 44 27.9

年度毎にマハラノビスの距離が小さい順にソートしており、上位の募集馬ほど過去の活躍馬と近い特徴を有していることになりますが、最後に悩ましいのは、この何処で線引きをするかです。今回はマハラノビスの距離が4未満を最有力評価、6以下を次点としています。

7.まとめ

前項にて上位評価された募集馬は「過去の活躍馬と類似した特徴を有している」と言うことですので、「活躍する素質を有している」と考えられます。但し、誤解してはいけないことは、ここでの評価はあくまでも必要条件であって十分条件ではありません。すなわち、「上位評価=活躍する」ではありません。あくまでも「上位評価=活躍する素質がある」です。従って、上位評価された募集馬の中から、更に絞り込んで出資馬を決定しなければなりません。

..では、ここからどの様な条件で絞り込むべきかと言うと、自分としては馬体と血統と気性ではないかと考えています。そもそも、今回の分析のスタートは「関節の可動域の広いこと」であり、これは特に中距離馬に求められる特性です。

つまり、今回の上位評価馬は「中距離を走ってこそ特徴が生きる馬」と言うことが出来ます。従って、ここからは中距離適性があるか否かで出資馬を絞り込むことが有用であると考えます。中距離を走るためには気性面が穏やかである必要がありますし、マッチョな体型は不適切です。短足や極端な直飛も避けたいところ。血統的には兄弟が中距離で走っていれば安心感があるでしょう。

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