UMACAについて考えてみた①

JRAから新たに投入されたキャッシュレス投票システムのUMACAですが、先週、東京競馬場に行ってみると大量の専用機器が設置されており、本格運用が開始されいました。多数の説明員が配置され、即時発行も行われており、JRAの本気度が伺える力の入れ様でした。実際に自分でも作成して試用してみた上で、UMACAのシステムについて考察してみたところ、重要な未来像が見えてきましたので、本稿ではその詳細を説明したいと思います。(長文になりますので複数回に分けてアップします。)

■UMACAとは?

端的に言うと、キャッシュレスの勝馬投票システムです。JRのSUICAに類似したチャージ式のカードで、チャージした金額と払戻金の合計額の範囲で馬券を購入することが可能です。構造的にはNFCチップの埋め込まれたカードであり、採用されているNFCチップはおそらくFelicaであると想像されます。
なお、馬券の購入はあくまでも電子的にUMACAの中に記録されるだけあり、で物理的な馬券を手にすることは出来ません。一方で、レース結果は自動的に残高に反映されますので、都度払戻しに行く手間が省けます。

■UMACAの発行方法

申し込みは登録受付ブースにて手続きを行い、発行までの所要時間は5分程度です。特に並んでいなければ、レースの合間に充分手続きが終わるレベルです。但し、UMACAの発行には年齢を証明する資料が必要なので、運転免許証、保険証などを予め用意しておく必要があります。なお、保険証でも発行できる様に顔写真の有無は問われません。

ここで重要なことは、「年齢さえ証明できれば個人情報は求められない」と言う点です。UMACAの申込み用紙に記入するのはニックネーム(カタカナ)と生年月日と郵便番号のみで、個人の特定が可能となる情報の登録は求められていません。つまり、現金で馬券を購入する際に個人情報の提示が不要であるのと同様に、UMACA経由で馬券を購入する場合も個人情報は求められないと言うことです。これは「IPAT口座が銀行口座と紐付けされることで、個人が特定される」点と大きく異なる部分であり、ここにJRAの意図が透けて見えます。JRAが唯一求めているのは成人あることの証明のみであり、個人情報は求めていないところが重要です。

一方で、カードが未成年者の手に渡って不正使用されることを防ぐ目的として、カードの発行時に掌の静脈情報の登録を行います。これは左右3回ずつ手のひらを読み取り機に翳すことで設定できるもので、時間にして1分も要しません。馬券購入時は読み取り機に掌を翳して本人確認を行うので、これがセキュリティとなり他人によるUMACAの不正使用が防止できます。
なお厳密には、投票に関しては静脈認証を使用せずに暗証番号を使用する方法も選択することが出来ます。一方で、出金時の認証は静脈認証が必須となります。何故、「投票時のみ静脈認証の代わりに暗証番号で代用が可能」であるのか、ここを考えるとある重要なポイントに思い至るのですが、それについては本シリーズの後半で述べたいと思います。

なお、カード発行は全て無料で行われます。今のところユーザ側の費用負担はありませんが、将来的に発行手数料を取られる可能性はあるかもしれません。

■UMACAの使い方

具体的な使い方は公式サイトのこの辺りに詳しく説明がされています。また、当面は競馬場に大量の説明スタッフが配置されていると思いますので、不明点は直接質問することが可能です。もっとも、あまり細かい内容の質問になると、スタッフの知識も追い付いていない感じでしたが..。

ここで注意すべき点は、「入金したお金をそのまま出金することは出来ない」と言う点です。言い換えれば「出金できるのは馬券の払戻金のみ」になります。例えば、10000円入金して1000円分の馬券を購入した結果、5000円の払い戻しがあったとします。このとき、UMACAのチャージ残高は10000-1000+5000=14000円となりますが、出金できるのは払戻金である5000円分だけで、入金額から馬券の購入代金を引いた残りの9000円は出金することが出来ません。すなわち、馬券の購入予定が無い程の多額の金額を予めチャージしてしまうことは、資金効率の面で非効率と言えます。この辺りの仕組みはIPATとは異なりますので注意が必要ですが、海外のオンラインカジノの利用経験のある方には馴染みの仕組みではないかと思います。

■JRA側のメリット

つぎに、UMACAを導入することに対するJRA側のメリットについて考えてみます。現状でもIPATと言うキャッシュレスのネット投票システムが存在する中で、なぜJRAは新たにUMACAを投入するのか? 改めて考えてみると、UMACAにはJRAにとって多大なメリットのあるシステムであることが判って来ます。

1.売上の向上

JRAの馬券の売り上げの一角を占めるWIN5と海外競馬への投票は、現状ではIPAT講座経由でのみ可能ですが、これがUMACA経由でも可能になります。何故、現金では投票できずIPATとUMACAでは可能になるのか、詳細な根拠は不明ですが、IPAT口座を持てない人(又は持ちたくない人)に対してもこれら馬券の購入門戸を広げることで、間違いなく売り上げの向上を期待することが出来ます。とくにWIN5の売り上げアップは大きいものと想像されます。

2.コストの削減

現金を扱う機器と、扱わない機器では機械の導入コストが大きく異なります。ATMの様な高額紙幣を扱う自動機器は、盗難防止や誤動作防止の充分な対策が必須であり、それだけ機体が複雑かつ高価になります。これに対して、UMACAはタッチ式のため可動部が少なく、現金も取り扱わずに済む上に、馬券の印刷機能も不要であることから、端末価格は大幅に安価なものになる筈です。

さらに、端末コストが低下することで、UMACAシートと言った座席で投票を実施するシステムの提供も容易になります。i-Seatの様な従来方式ではJRA側の設備コストが嵩むため、利用者の利用料金負担も大きくなりますが、設備コストの安価なUMACAシートであれば利用料金も抑えることが出来るはずです。

加えて見逃せないのがランニングコストの削減効果です。現金を扱わない機械は現金の補充と出金の作業が無くなり、それに要する人的コストが削減されます。さらに、機械の構造がシンプルになるほど故障率が低下しますので、それに応じて保守費用も削減されます。

また、用紙の節約やインクの節約は、エコロジーの観点から世間へのアピールポイントになり得ます。ハズレ馬券のゴミも減り、清掃スタッフも削減できるかもしれません。

3.未成年者問題への対策

昨今ではカジノ法案の件もあって、ギャンブル依存症への対策や未成年者への販売防止を求める世間の声が厳しくなっています。そしてこれに対し、UMACAの導入はJRAとして一つの回答となる筈です。現在の競馬場や場外馬券場は未成年者による馬券の購入を本質的に防ぐ手立てを有していません。これに対し、UMACAは発行時点で年齢証明が行われており、静脈認証により他人の使用も出来ないことから、全ての馬券販売をUMACA経由にシフトすれば、「未成年者への販売は行っていない」とJRAは主張することが可能になります。これはタバコの購入にタスポカードの提示が求められることと類似しています。
この主張をJRAが行うためには全ての馬券販売をUMACA経由に切り替え終わる必要がありますが、将来的にJRAは全ての券売機をUMACA経由とし、残りは窓口対応に切り替えるものと予想します。

さらに、UMACAはギャンブル依存症対策にも利用できる可能性があります。但し、これにはUMACA発行時にギャンブル依存症では無い旨の証明を行う必要があり、現状ではその証明手段がありません。この様な公的な証明手段が別途提供されない限り、実現は難しそうです。

4.チャージ残高の活用

これがUMACAを導入することに対する、JRA側の最大のインセンティブであると考えらえます。SUICAなどのチャージ型電子マネーに共通するメリットですが、チャージされた残高からJRAは金利収入を得ることが可能になります。UMACAにチャージされる残高は、高額払い戻しを受けたケースも考えると、SUICAの様な電子マネーに比較して、高額になる可能性があります。ここから得られる継続的な金利収入だけでも、JRAは機器導入コストを十分にペイできるものと想像します。


本稿はまだまだ続きます。今回はここまでとして、次回はユーザー側のメリットについて考察を行う予定です。

《次回に続く》

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