出資馬について、その判断事由を備忘録として残しておくシリーズです。3月末のクラブポイント失効のタイミングで、YGG募集馬のサウンドアドバイスの21(リナリア)への出資を決断しましたので、その判断に至った事由を記しておきます。
元々、YGG募集馬への出資は年間2~3頭を想定するところに、21年産馬はキングスミールの21とクラリティアイズの21への出資を早々に決断をしたことから、残り1枠の決定には厳選に厳選を重ねていました。
具体的には、ビーチパーティーの21・ビジュートウショウの21・スズカシャンティーの21を後ろ髪を惹かれながらも見送る決断をしたのですが、それもこれも本馬サウンドアドバイスの21への期待値を上回らなかったことが原因です。
募集当初から、サウンドアドバイスの21への個人評価はトップクラスに高かったのですが、問題はその気性面の危うさにありました。これが競争馬として致命的なレベルなのか、それとも調教して対処可能なレベルなのか、時間を掛けて見極めて来たワケですが、想像以上に順調な育成が行われ、近々に本州への移動予定も示されました。これを以て、「本馬に出資して問題なし」の判断に至った次第です。
■種牡馬
父アメリカンペイトリオットはWarFront系の輸入種牡馬です。世界的に広がるWarFront系の種牡馬としては日本で初めて共用されました。初年度産駒からホープフルS(G1)2着のトップナイフを出したデクラレーションオブウォーと併せて、WarFront系種牡馬が日本競馬でも成功することに疑いはありません。
ここで、アメリカンペイトリオット自身は米国の芝マイルG1に勝鞍があることから、「スピード能力を併せ持った種牡馬」と考えられ、過去2世代の戦績を見ると「芝の短距離」と「芝/ダートの中距離」に良績を残しています。具体的に、初年度産駒からスプリングS(G2・芝1800)を勝ったビーアストニッシドを出し、2年目は小倉2歳S(G3・芝1200)で3着となったシルフィードレーヴを出しました。産駒数の増えた現中央3歳馬を見るとAEIが1.1を示しており、種牡馬としての今後の人気は高まることが予想されます。
ちなみに、YGG所属馬ディオアステリアの父ザファクター、コスタドラーダの父Omaha BeachもWarFront系種牡馬であり、YGGスタッフの中にWarFrontの父系を推す方が居られるのかもしれません。
■牝系
母サウンドアドバイスは3勝を上げた活躍馬で、桶狭間S(1600万下)でも2着と、オープン入りにあと一歩まで迫りました。距離適性は1200~1400の短い所になりますが、芝とダートの両方で勝鞍を上げている点がポイントです。
2頭の姉兄は中央未勝利ですが、姉カフジアマリージャは芝の新馬戦でタイム差無しの2着でしたし、地方デビューした兄ルナテンソウマオは船橋で新馬勝ちを収めています。全く能力の無い訳ではありません。只、何れも短距離適性である点には留意が必要です。
■配合
父アメリカンペイトリオットは産駒数が現時点で少なく、配合上のポイントを見出すにはサンプルが足りません。また、父系と牝系を見ても、芝/ダートの両方で良績があり、何れに出るかは定かではありません。只、牝系から推測すると、距離適性は短い方向に寄りそうです。
■測尺(参考)
募集時点(8月23日)の測尺は以下の通り。
体高:150.0 胸囲:174.0 管囲:20.0 体重:419
まず、胸囲174cmと管囲20cmは突出はしていませんが不足感はありません。一方で馬体重419Kgは軽めな印象ですが、平均的な牝馬の馬体重440Kg台での競馬は出来そうです。ダート馬であればもう少し体重が欲しいところですが、自分は本馬を芝馬と見込んでおり、この馬格でも十分と判断しました。
■駐立写真(参考)
上記計測は募集時の駐立写真を対象に行ったものです。前後のパランスが取れている点が特徴で。背中が短く、その分だけ肩が寝て胸幅がある印象です。腰幅の35.9%も決して少なくはありません。
胴と体高の比率は106%で微妙に胴長で短足。体高が150cmと低いことも合わせると、脚の短いことは確定的で、脚質は短距離傾向になりそうです。
全体的に筋肉質な馬体で、特に中殿筋の発達が目立つところに惹かれました。首が短く、胸前が立派な点は短距離適性を示すものと考えました。飛節は微妙に曲飛傾向なので、キレる脚が使えることを期待します。
■歩行動画
本仔への出資を最後まで諦めることの出来なかった理由が歩様です。下図で示す通り、曲飛傾向のため後肢は直線状に伸び切ってはいませんが、それでも水準以上の伸びは確認できます。そして反対に、曲飛の分だけ踏み込みが深く、トータルで極めて広いストライドを実現していることが判ります。このストライドの広さは前肢の動きにも表れており、上側の写真でも明らかなように、柔らかく前に大きく振り出されています。
つぎに、速い歩速でキビキビと歩けていることからは、運動神経の良さが伺えます。また筋肉の質感については、全体的に筋肉質のフォルムにも関わらず、硬過ぎることのない適度な弾力性を感じます。
本仔の出産時の母年齢は11歳で、参考1に示す通り、高成績の期待できる出産年齢に該当します。加えて、2代母の出産年齢は7歳と更に若く、母との平均年齢は9歳となり、参考2に示す通り、ベストと言える好条件です。
また、誕生日の3月5日は参考3に示される様に、これも平均以上の条件です。
■生産と育成
生産は静内・タイヘイ牧場。育成は99.9(ナインティーナインポイントナイン)にて行われました。99.9は新進の育成牧場なので、正直、その手腕に不安を感じるところもあり、これも様子見を粘った理由の1つになります。結果としては、気性に難点のある本仔を上手く育成して、順調に乗り込んで貰えたと評価しています。
ちなみに、99.9を開業された木村拓巳氏は、カナダで大活躍する木村和士Jの実兄に当たります。ご本人は競馬学校を中退されてしまいましたが、南関の厩舎での修行を経て、育成牧場の開場に至ったとのこと。
■厩舎
預託先厩舎は美浦の伊坂厩舎。今年が開業3年目の若い厩舎で、実績の無い点が不安材料になります。直近2年のリーディング成績は160位台で、スタートダッシュに苦労している状況が伺えますが、引継ぎ元厩舎の無い状況であれば、やむを得ないものと思います。
むしろ、リーディング下位に低迷するベテラン厩舎よりは遥かに伸び代があるとも考えられ、実際、調教動画をTwitterにアップされるなど、既存の厩舎には見られない情報発信には好感が持てます。
■価格
募集価格は総額990万円。YGGの中央募集馬としては最低価格帯の募集馬になります。もっとも、YGGの募集馬の場合、高額馬よりも低額馬の方が走る傾向もあり、安価であることは必ずしも懸念材料にはなりません。
元々本仔は2022年7月の八戸市場に上市され、YGGが470万円で落札したものです。そこからの育成費と手数料が加算されての990万円募集ですから、価格的には市場評価額相当と考えて差し支えありあません。
■テシオ理論
父アメリカンペイトリオットの活性値は7ですが、母系の4代父Caerleonの活性値が8のため、優先祖先は母サウンドアドバイスになります。即ち、テシオ理論的には本仔は父親似では無く、母似の産駒と判断されます。もっとも、サウンドアドバイス自身が3勝した活躍馬ですから、母似の短距離馬になって貰えるならば十分でしょう。
一方、基礎体力値は52%で標準的ですが、前述の通り、本仔の母系の年齢は統計的に好条件を満たしていますから、基礎体力値は無視して構いません。
■おわりに
これまで確認した通り、非常に好評価ポイントの多い本仔ですが、一方で最大の懸念材料はその気性です。「クラブの牧場見学会に際しては鎮静剤を投与して登場した」と言う逸話まで残っています。
その一方で、乗り込みが出来ない様なトラブルは起こしておらず、育成は順調に進捗し、2月後半には坂路14秒ペースまで進めることが出来ています。これだけ乗り込めるのであれば、「入厩してトレーニングが積めない」と言った問題は回避されると思います。
もちろん、競馬に行ってどうなるかは全く別な話ですが、それは多かれ少なかれ全ての仔馬に共通する問題と割り切ることも可能です。そして、この低価格募集であれば、多少のリスク要素は負えるものと判断しました。「多少の疳性のある馬は、優しい馬より走る」とも考えおり、そこに賭けて見たいと思っています。