これまで、自分が募集馬の検討・評価を行ってきた際には、「歩様の良し悪しは判らないので評価しません」と書き続けて来た訳ですが、今回はこの「歩様」について改めて考えてみようと思います。一見すると毎度の冗談ネタの如く見えるかと思うのですが、今回は大真面目で考えていたりします。
1.概要
まず、何故に自分がこれまで歩様を募集馬の評価項目にして来なかったかと言うと、それは「そもそも歩様の定義が不明確であること」に尽きると言えます。巷では歩様の良し悪しを語る際に、「踏み込みが力強い」とか「柔らかい動き」とか「前進気勢がある」等と言ったりするワケですが、これらは技術者視点でみると余りにも主観的であり具体性がありません。そもそも、「力強い」と「柔らかい」は相反する要素とすら思えます。
しかしこれらに対して、「関節の可動域が広い」と言うコメントについては検討の余地を感じます。明確な定義こそ見つかりませんが、常識的に考えれば「脚部が柔軟に動ける度合い」と見なすことが出来ると思います。そこで今回は、この関節の動く範囲を定量化して評価することを考えます。
2.定量化の方法
ここで、具体的な定量化方法を説明します。
前肢角(黄)と後肢角(紫)
今回、関節の可動域の定義として上図に示す2つの角度を用います。以下、この2つの角度を前肢角と後肢角と名付けることにします。この2つの角度が小さいほど、脚部の振り幅が大きく、関節の可動域が広いと考えようと言う趣向ですが、問題は本角度を測定するタイミングです。そして、ここではこの測定タイミングを「左後ろの脚が地面を離れる瞬間(飛節がより伸びている瞬間)」と定めました。後肢が地面を離れる瞬間と言うのは前肢が最も降り上がる瞬間と概ね近いことから、募集動画をコマ送りで再生しながら当該の瞬間を探して行きます。只、実際に本作業を行ってみると、コマ送りでもベストな瞬間に動画を静止出来るワケではなく、厳密には「よりベターな瞬間に静止する」よりありません。従って、本稿の測定結果には一定の誤差が含まれることを了解して頂きたいと思います。
肩の角度
更に、今回の測定タイミングは後肢角をより重視した瞬間に設定していることから、前肢角は厳密に前脚が最も降り上がる瞬間とはズレがあります。この前肢角の測定の不完全性を補完する目的で、今回は上図に示す肩の角度(以下、肩角と記します)を併せて測定します。一般に肩角は前肢の稼働域に相関すると言われており、肩角が寝ているほど関節の可動域が広くなります。
3.測定結果
前項にて定義した前肢角・後肢角・肩角の3つの角度を、現1歳と現2歳のグリーンファーム募集馬について調べた結果を次に示します。ここで、募集が概ね終了している2歳馬も敢えて調査対象に加えた理由は、フィードフォワードテストの材料とすることにあります。これから結果が出て来る2歳馬の成績が今回の分析と相関すれば、本分析に妥当性があることを確認することが出来るでしょう。
馬名 | 前肢角 | 後肢角 | 肩角 |
モンシュシュの2018 | 45 | 44 | 47 |
リリーアメリカの2018 | 51 | 46 | 45 |
ツルマルオトメの2018 | 44 | 42 | 44 |
ゼマティスの2018 | 48 | 47 | 40 |
ブルーモントレーの2018 | 52 | 43 | 40 |
マンハッタンフィズの2018 | 53 | 47 | 43 |
オープンユアアイズの2018 | 50 | 50 | 40 |
スルーレートの2018 | 46 | 46 | 52 |
トゥルーストーリーの2018 | 50 | 43 | 46 |
オールドパサデナの2018 | 44 | 46 | 42 |
アースサウンドの2018 | 57 | 45 | 48 |
レイヨンヴェールの2018 | 44 | 42 | 39 |
アイアムルビーの2018 | 49 | 45 | 41 |
アースグリーンの2018 | 49 | 44 | 42 |
クーデンビーチの2018 | 50 | 42 | 44 |
デザートオブムーンの2018 | 50 | 45 | 46 |
レースウィングの2018 | 54 | 47 | 44 |
ノーブルリーズンの2018 | 54 | 46 | 40 |
ネーラペルレの2018 | 50 | 48 | 43 |
サウンドトラック | 48 | 52 | 44 |
エールプレジール | 49 | 50 | 45 |
ナショナルアンセム | 48 | 41 | 42 |
ルヴエルソー | 48→49 | 44 | 41 |
ファビュラスライン | 52→49 | 45→44 | 42 |
エレガンテレイナ | 54 | 49 | 48 |
ピンクレガシー | 51→48 | 40→47 | 43 |
ノルトシュライフェ | 47 | 45 | 44 |
シュアゲイト | 47→46 | 42→45 | 43 |
エピデンドラム | 47 | 44→50 | 41 |
スペラーレ | 53 | 41 | 49 |
グレースオブナイル | 50→48 | 46 | 47 |
ワンスウィートデイ | 48→49 | 41→44 | 42 |
グランマリアージュ | 46 | 45 | 41 |
ノワールフレグラン | 52 | 46 | 46 |
フラワーエッセンス | 46→48 | 43→47 | 44 |
ルヴァンヴェール | 51 | 46 | 41 |
平均 | 49.22 | 45.56 | 43.58 |
標準偏差 | 3.08 | 2.60 | 2.95 |
(2019/10/20追記)データに転記ミスが見つかりました。朱記にて訂正させて頂きます。
4.分析・評価
関節の可動域が広いことが長所であるとすれば、本リストで3つの角度が小さい募集馬を見つけて、出資候補に選べば良いことになります。例えば、3つの角度全てが全体平均値より小さな募集馬をピックアップするとすれば、現1歳馬ではレイヨンヴェールの2018とアイアムルビーの2018とアースグリーンの2018の3頭がピックアップされ、現2歳馬からはナショナルアンセム・ルヴェルソー・ファビュラスライン・シュアゲイト・ワンスウィートデイ・グランマリアージュの6頭がピックアップされることになりす。
これらの募集馬は「関節の可動域が広い募集馬」と考えて良い筈ですが、これが本当に出資判断において有意なファクターとなるのかは、依然として不透明なままです。また、ここで示した3つの角度をより統合的に定量化しないと出資判断に用いるとしても使い勝手が悪すぎます。そこで次回は、本分析の有用性を検証すると同時に、3つの角度を用いた総合的な指数を提案したいと思います。